日本のペット保険加入率は、犬で約23%。一方、スウェーデンでは犬の90%が保険に加入していると言われています。同じ「ペットと暮らす」国でありながら、なぜここまで差が開いたのでしょうか。今日は、世界で初めてペット保険を生み出した国・スウェーデンを訪ねながら、「ペットと家族として生きる」ことの経済的な土台について、私たちなりに考えてみたいと思います。
■ 1890年、スウェーデンで始まった「動物の保険」
ペット保険の歴史は、1890年に設立されたスウェーデンの保険会社・Agria(アグリア)に遡ります。当初は牛や馬といった農業動物を対象にした保険会社でしたが、1924年に犬向けの保険を開始。これが世界初の「ペット保険」とされています。
そこから100年。現在のスウェーデンでは、犬の約90%、猫でも約50%が何らかのペット保険に加入していると報告されています(Agria発表)。ペット保険市場の規模は、2024年で約9.2億ドル。2030年には約24億ドルに達すると予測されており、年率17%前後の成長が見込まれています。
市場のシェアは、最古参のAgriaが約55%、続いてFolksamが21%、IF SkadeförsäkringとSvelandがそれぞれ9%前後。少数の大手が長く市場を支え続けてきた構造です。さらに2024年11月には、AgriaがイギリスのペットリテーラーPets at Homeと提携し、店頭で保険加入できる仕組みを発表しました。スウェーデン発の保険ノウハウが、ヨーロッパ全体に広がろうとしているのです。
■ なぜ「90%」という数字に辿り着けたのか
スウェーデンのペット保険文化を支えているのは、保険会社の努力だけではありません。背景には、ヨーロッパでも最も厳しいと言われる動物福祉法(Djurskyddslagen)の存在があります。
たとえば、犬は毎日屋外で運動させなければならず、6時間以上ひとりにしてはいけない、と法律で定められています。耳や尻尾を見栄えのために切る、いわゆる断尾・断耳も禁止。「犬は家族の一員であり、福祉を守るべき対象である」という価値観が、ふんわりとした空気ではなく、明文の法律になっているのです。
もうひとつの要因が、医療費の重さです。スウェーデンの動物病院は、初診料だけで500〜900クローナ(おおよそ7,000〜13,000円)。手術や入院になると一気に膨らみ、ある調査では犬1頭あたりの診療費の平均は約11,434クローナ(およそ16万円)に達するとされています。嘔吐や下痢といった一見ありふれた症状でも、原因によっては数十万円規模になり得る世界です。
「家族のためなら、保険でリスクを平準化するのは当然」。そう考えるだけの強い経済的合理性が、現場にはあります。
■ 日本との違いは「遅れ」ではなく「フェーズ」
日本のペット保険加入率は、2025年時点でおおむね20%。犬で約23.6%、猫で約17.5%という数字です。スウェーデンと比べると確かに低いのですが、私たちはこれを「遅れている」とは捉えていません。
スウェーデンは100年かけて、動物福祉法・医療コスト・保険文化を絡み合わせながらここまで来ました。日本のペット保険市場が本格的に立ち上がってきたのは、ここ20年ほどの話です。むしろ、今のペースで成長が続けば、近い将来にイギリス並みの水準に到達するという見立てもあり、市場全体の年成長率は17%前後と予測されています。
注目したいのは、スウェーデンと日本では「保険」という言葉が指す範囲も違うことです。スウェーデンの主要保険は、ケガや病気だけでなく、しつけ相談やオンライン獣医チャット、迷子捜索の費用までカバーするものが少なくありません。「医療費の備え」というより、「一頭の生涯設計のインフラ」として機能しています。
問われているのは、「数字で追いつく」ことではなく、「ペットを家族として迎える前提を、社会としてどう設計していくか」ではないでしょうか。
■ 私たちが今からできること
スウェーデンの事例から、私たちが日本で取り入れられるヒントは、少なくとも3つあると考えています。
▼ 飼い主として
ペットを迎える前に、年間の医療費がどのくらいかかり得るかを試算しておくこと。「もしも」の備えを、感情ではなく数字で考えてみることです。
▼ 事業者として
保険・医療・しつけ・住まいを、ばらばらの商品ではなく「一頭が一生を生き抜くための仕組み」として束ねていくこと。私たちソプラ銀座も、サロン・幼稚園・ホテル・教育を、その一頭の人生のなかで連続して支える存在でありたいと考えています。
▼ 行政・地域として
動物福祉法の細やかな改定や、自治体ごとのガイドラインの更新を、「業界の話」ではなく「都市の話」として議論していくこと。スウェーデンの「6時間以上の留守番禁止」のような数字を、そのまま輸入する必要はありません。ただ、「家族として迎えた以上、最低限ここは守ろう」というラインを、社会の合意として可視化していくことが、保険のような後追いの仕組みを支える土台になります。
■ 共に生きることを、社会の前提に
90%という数字は、決してスウェーデンが「ペットに優しい国」だから生まれたわけではないのだと思います。家族として迎えた一頭の命を、最後まで支え抜くための仕組みを、100年かけて少しずつ積み上げてきた結果としての90%です。
うちの子と、できるだけ長く、できるだけ穏やかに過ごしたい。その願いは、国境を越えて変わりません。日本にはまだ日本のフェーズがあり、ここからつくっていける景色があります。共に生きるという選択を、社会の前提に。私たちは、その一歩ずつを、銀座から積み上げていきたいと考えています。
#犬のいる暮らし #ペット共生 #ソプラ銀座 #SOPRA #スウェーデン #北欧 #ペット保険 #動物福祉 #ペットと暮らす #まちづくり #多様性

