ペットを迎えるのに、役所の「許可証」が要る地域がある。── ベルギー・ワロンが2018年に動物を「私たちと同じ、感じる存在」と書いた話

犬や猫を家族に迎えるとき、あなたは何を準備するでしょうか。フード、ベッド、トイレ、そして家族の同意。ベルギー南部のワロン地域では、もうひとつ必要なものがあります。役所が発行する「飼育許可証」です。ペットショップでも、保護施設でも、この紙がなければ動物を引き取れません。やりすぎだと感じるでしょうか。それとも、ここまでやるからこそ守れるものがあるのでしょうか。今日は、動物を法律で「感じる存在」と定義した国の話をします。

■ ワロンの「飼育許可証(permis de détention)」という仕組み

ベルギーのワロン地域では、2022年7月1日から、ペットを購入・譲渡・里親として迎えるすべての人に「飼育許可証」の提示が義務づけられました。フランス語で permis de détention(ペルミ・ド・デタンシオン)と呼ばれます。

仕組みはこうです。動物を迎える前に、自分が住む自治体(コミューン)の窓口で証明書を申請する。役所は、その人が過去に動物福祉法違反で「飼育禁止」を命じられていないかを照会する。問題がなければ証明書が発行され、有効期限は30日間。この紙を持って初めて、ペットショップや保護施設で動物を引き取れます。

対象はとても広く、犬・猫はもちろん、レジャー用の馬、鳥、ハムスター、ウサギ、フェレット、爬虫類まで含まれます。動物を虐待して有罪になり飼育を禁じられた人が、別の店でまた動物を手に入れる──そのループを、購入の入り口で止めるための制度です。

ここで大切なのは、この許可証が「試験」ではないということ。知識や飼育環境を審査して合否を出すものではありません。あくまで「過去に飼育を禁じられていないか」を確認するだけ。だから、ほとんどの人にとっては窓口ぐ30日有効の紙を一枚もらうだけの、数分の手続きです。それでも「迎える前に、役所を一度通る」という、ささやかな立ち止まりが、社会全体に組み込まれている。そのことに意味があるのではないでしょうか。

■ その土台にある「動物は感じる存在」という宣言

この許可証は、ある大きな法律の一部です。ワロン地域は2018年10月、ベルギーで初めての包括的な動物福祉法典「ワロン動物福祉法典(Code wallon du Bien-être animal)」を採択し、2019年1月1日に施行しました。

この法典がうたう言葉が印象的です。公式ブローシャのタイトルは「意識があり、感じ、生きている。私たちと同じように(Conscients, sensibles et vivants, comme nous)」。条文は、動物を「自らの性質に固有のニーズを持つ、感覚ある存在(être sensible)」と明確に定義しました。

そして「飼育許可」という考え方も、ここから生まれます。原則として、すべての人がこの許可を「生まれながら」持っている。けれど、動物を傷つけて司法・行政から飼育禁止を言い渡されると、その許可は取り消される。つまり「動物を飼うことは、奪われうる権利だ」という思想が、制度の根っこにあるのです。

■ なぜベルギーは、地域ごとにここまで踏み込めたのか

意外に思われるかもしれませんが、ベルギーには「国の動物福祉法」がありません。2014年の国家改革で、動物福祉の権限は連邦から3つの地域(ワロン、フランデレン、ブリュッセル)へ完全に移されました。だからワロンには UBEA(動物福祉ユニット)という独自の担当部署があり、フランデレンやブリュッセルとは別々のルールを持っています。

権限が地域に下りたことで、それぞれの地域が「自分たちの社会に合った踏み込み方」を競えるようになった。ワロンが許可証制度という思い切った一歩を踏み出せたのは、この分権があったからだと考えられます。大きな国の一律ルールではなく、人口数百万規模の地域が、自分たちの責任で制度を設計する。小さい単位だからこそ、新しい仕組みを試しやすいのかもしれません。

背景には、ベルギーで6割近い世帯がペットと暮らし(FEDIAFによれば犬は約205万頭、猫は約308万頭)、動物福祉への市民の関心が高いという土壌もあります。特に若い世代やフランス語圏での飼育率が高いと報告されており、ワロンが踏み込んだ制度をつくりやすかった理由のひとつだと考えられます。「飼う人が多い社会」は、同時に「飼い方を問い直す責任が重い社会」でもある。数の多さが、ルールの厳しさを支えているのです。

■ 日本との違い、そして私たちが今からできること

日本にも、動物愛護管理法による「販売時の対面説明」や「第一種動物取扱業の登録」、マイクロチップの装着義務といった仕組みはあります。けれど「飼う側の資格を、購入の前に役所が確認する」という発想は、まだ一般的ではありません。これは日本が遅れているという話ではなく、フェーズが違うという話だと私たちは考えています。日本は売り手側を規制することで質を担保しようとしてきた。ワロンは、迎える側の入り口にも一本の線を引いた。アプローチの順番が違うだけなのかもしれません。

そしてワロンの制度も、決して万能ではありません。虐待で有罪になった人を入り口で止めるという、限定的だけれど確かな一点に絞られています。「許可証があれば良い飼い主」を保証するわけではない。だからこそ、紙の手続きと並んで「迎える前に学ぶ文化」が大切になります。

では、私たちが今からできることは何でしょうか。ひとつは「迎える前に学ぶ」を当たり前にすること。飼育のしつけや習性を、迎えてからではなく迎える前に知る。ソプラ銀座が犬の幼稚園や教育事業を続けているのも、「飼うこと」を一度立ち止まって考える文化を、日本でも育てたいからです。事業者は迎える人の準備を支え、飼い主は学ぶことをためらわず、行政は仕組みで後押しする。許可証という紙そのものより、その奥にある「動物を迎えるのは、責任を引き受けること」という合意のほうが、ずっと本質的なのだと思います。

動物を「感じる存在」と法律に書いた国がある。その一文の重さを、うちの子の寝顔を見ながら、少しだけ考えてみたくなりました。共に生きるという選択を、社会の前提に。その一歩は、案外こんな小さな「迎える前のひと手間」から始まるのかもしれません。

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