朝6時、セントラルパークは"犬のもの"になる。── ニューヨーク式「時間で共生する」都市の作り方

セントラルパーク、843エーカー。東京ドーム約70個分の広さを誇る、世界で最も有名な都市公園です。
そこには、犬と暮らす人だけが知っている”時間”があります。
朝6時から9時。夜9時から深夜1時。この時間帯、ニューヨーカーは指定エリアで犬をノーリードで歩かせることができる。ドッグランの中ではなく、公園そのものの中で、です。
「ペット共生都市」を語るとき、私たちはつい「専用施設」を増やそうとします。でも、ニューヨークが選んだ答えは、少し違いました。

■ ニューヨーク式「オフリーシュ・アワー」とは

ニューヨーク市公園局(NYC Parks)が運用するOff-Leash Hours制度は、指定エリアにおいて朝の開園から9時まで、夜9時から閉園の翌1時まで、犬をリードから外して遊ばせていい、というルールです。

セントラルパークだけでも、23ヶ所の犬同伴エリアが設けられています。さらに市内の公園は4つのカテゴリに分類されており、「犬が入れない場所」「リード必須の場所」「フェンス付きドッグラン」「指定オフリーシュ・エリア」。同じ”公園”でも、犬との関係性が公式に整理されているのです。

■ なぜ「場所」ではなく「時間」で分けたのか

ここがニューヨーク式の発想の妙だと、私たちは考えています。

土地が極端に高いマンハッタンで、犬専用の広大な敷地を新たに作るのは現実的ではありません。
そこで街は、既存の公共空間を”時間で分け合う”という選択をしました。

通勤前の朝、子どもたちが遊ぶ前。
ジョガーや観光客が帰った後の深夜。
人の活動が薄い時間帯を、犬と飼い主のものにする。

時間帯ごとに公園の主役を入れ替える、いわば”シェアリング型”の都市設計。ハードを増やすのではなく、運用ルールで共生を作り出した、と言えるのではないでしょうか。

興味深いのは、この制度の運用に市民団体が深く関わっていることです。1999年に設立されたNYCdog(New York Council of Dog Owner Groups)は、セントラルパークPAWSやFIDO in Prospect Parkなど、地域ごとの飼い主グループを束ねる団体。市と協議を重ね、警察やパークレンジャーとのトラブルを減らすためのマナーガイドを配布してきました。
“行政が決めたルール”ではなく、”飼い主たちが守ることでようやく成立しているルール”。この当事者性が、制度を脆くも強くもしているのだと思います。

■ 数字で見る、ニューヨークと犬

ニューヨーク市内には、約60万頭の犬が暮らしているとされています。ただし市保健局によれば、ライセンス登録されている犬は年間約8万5,000頭。およそ5頭に1頭しか公式登録されていない計算です。

NYC Economic Development Corporationの試算では、ペット飼育が市にもたらす経済効果は年間15億ドル(約2,300億円)超。ニューヨーカー1人あたりの犬への年間支出は1,200~2,000ドルと、全米平均を大きく上回ります。

地下鉄ではMTA Code of Conduct 1050.9に基づき、犬は「バッグや容器に入っていれば」乗車可能。サイズや体重の規定はなく、結果としてIKEAの大型ショッピングバッグ”FRAKTA”に大型犬を入れて電車に乗る”NYカルチャー”が生まれたのは、ご存知の方も多いかもしれません。

街が大きな声で「犬を歓迎します」と宣言するのではなく、ルールの”あそび”を市民が見つけ、それを街が黙認する。この緩さもまた、ニューヨーク的だと感じます。

ちなみにニューヨーク市の全世帯のうち、犬を飼っているのは約15%。全米平均(42.6%)と比べるとむしろ低いほうです。それでも犬と暮らす人たちの存在感が際立って見えるのは、都市の運用ルールが彼らを”見える存在”にしているから、と私たちは見ています。

■ 日本との違い ── “場所”中心の発想から、”時間”の発想へ

日本のペット共生施策は、どうしても「ドッグラン整備」「ペット可施設の認定」のように、専用空間や専用カテゴリの整備が中心になりがちです。

それはそれで尊い取り組みですし、ソプラ銀座もそうした場づくりに関わってきました。ただニューヨークを見ていると、もう一つの軸が見えてきます。

それは、「時間で公共空間を分け合う」という発想です。

朝の公園、深夜の遊歩道、平日昼間の広場。すでにある空間を、犬と暮らす人たちのために少しだけ”開く”。それは新しい施設を作るより、はるかに低コストで、はるかに早く実現できます。

日本が遅れているのではなく、たぶん”フェーズが違う”のだと思います。専用施設を整える段階の次に、時間で分け合う段階が来る。だとすれば、私たちはもうそろそろ、その入り口に立っているのではないでしょうか。

■ 私たちが日本でできること

たとえば、地域の公園で早朝の1時間だけリード長を緩める実証実験を行う。
商店街が”犬同伴ウェルカム”の時間帯を平日午後に設定する。
ホテルやレストランが、特定の曜日や時間帯を”ドッグウェルカム・アワー”にする。
公共施設の屋外スペースを、開園前30分だけ犬と人に開放する。

飼い主側にも、自分たちなりの工夫ができそうです。
散歩のピーク時間を少しずらす。早朝の公園に通う仲間と顔見知りになる。深夜の遊歩道で他の利用者に道を譲る。”時間”という資源は、行政だけでなく、私たち一人ひとりも分け合える資源なのです。

ソプラ銀座も、東京都中央区を起点に、こうした「時間で共生する」アイデアの実証や発信に取り組んでいきたいと考えています。

施設を一気に増やすのは難しくても、時間を少し譲り合うことなら、明日からでも始められるのではないでしょうか。

■ “犬のための公園”ではなく、”犬と暮らす人のための時間”を

セントラルパークの朝6時を歩いたことのある方は、わかってくださると思います。
リードを外した犬たちが、芝生を全速力で駆けていく姿。
飼い主同士が朝の挨拶を交わす、静かな光景。

それは”犬のための公園”ではなく、”犬と暮らす人のための時間”が街に組み込まれている、ということです。

うちの子と、街の中で深呼吸できる時間。
それは、新しい施設の完成を待たなくても、私たちが少しずつ作っていけるはずだと、私たちは考えています。

ペットと共に世界中を笑顔で満たすために。
今日も、いつも一番そばに。

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