犬の「免許データ」で、公園の場所を決める街がある。── バンクーバーが名指しした"犬の空間が足りない6地区"の話

犬を飼うと、多くの国で「登録(ライセンス)」が求められます。日本でも狂犬病予防法にもとづく登録がありますよね。でも、その登録データを「どこにドッグランを作るか」の設計図として使っている都市があると聞くと、少し意外ではないでしょうか。

カナダ・バンクーバー。この街では、犬のライセンス情報が公園づくりの根拠になっています。今日は、犬の居場所を「感覚」ではなく「データ」で設計するカナダの都市の話をお届けします。

■ カナダは、4割の家に犬がいる国

まず前提から。カナダ動物衛生協会(CAHI)などの調査によると、2024年時点でカナダには推定約720万頭の犬がいます。犬を飼っている世帯は全体のおよそ39%。ペット全体では約8割の世帯が何らかの動物と暮らしていて、総数は2,850万匹規模にのぼると見込まれています。人口約4,000万人の国で、ペットの数が人口の7割に迫るわけです。

都市部の密度も高い。トロントには推定約30万頭の犬がいて、市はこれを「増え続けている」と表現しています。高層住宅では「1フロアあたり4〜8匹のペット」という推計まであるほどです。人と犬が、限られた土地の上でどう共存するか。これはもう、避けて通れないテーマになっています。

そのトロントも、実は制度づくりに苦労してきました。市が長く使ってきた「People, Dogs and Parks(人と、犬と、公園)」というオフリーシュ方針は2010年に作られたもので、将来どこに犬の区域を増やすかという設計指針を持っていませんでした。現在トロント市内には60を超えるオフリーシュエリアがありますが、「区(ward)によってはドッグランが1つもない」「新しい高密度地区に整備が追いついていない」といった声が住民から上がり続けています。市は2019年に方針の見直しを決め、より計画的な戦略への更新を進めているところです。カナダの都市も、走りながら制度を組み直しているのです。

■ バンクーバーの「People, Parks, and Dogs」

そこでバンクーバー市の公園局(Park Board)が2017年に策定したのが、「People, Parks, and Dogs(人と、公園と、犬)」という戦略です。今後10年以上を見据えた、公園の使い方の枠組みです。

この戦略の面白いところは、オフリーシュエリア(犬を放していい区域)を「どこに、どう作るか」を明確な基準で決めている点にあります。優先順位を判断する材料は、大きく3つ。

・登録された犬の数がもっとも多いエリア
・住民の居住密度がもっとも高いエリア
・今後の人口増加が見込まれるエリア

そして市は、地図と分析にもとづいて「犬の空間が足りていない6地区」を実名で名指ししました。キツラノ、マウント・プレザン、ダウンタウン、ウエストエンド、グランドビュー・ウッドランド、フェアビュー。これらを重点整備地区として、新設や拡張を進めています。実際、2025年5月にはサウス・キャンビー地区のヒーザー・パークに新しいオフリーシュエリアが開設されました。

■ なぜ「データで決める」ことが大事なのか

犬の空間の整備は、しばしば「声の大きい人がいる地区」から進んでしまいがちです。でもそれでは、本当に必要としている密集地や新興住宅地が後回しになる。バンクーバーはそこを、ライセンスデータという客観的な数字で補正しようとしています。

戦略では、オフリーシュエリアを「サイズ」「路面の素材」「設備」「境界の作り方」という4つの要素で類型化しています。大型犬が走れる広い区域もあれば、臆病な小型犬のための分離スペースもある。雨の多いバンクーバーでは芝生がすぐぬかるむ、といった気候の現実まで設計に織り込まれています。「犬用スペースを作りました」で終わらせない、都市インフラとしての解像度の高さがそこにあります。

もうひとつ、この戦略が丁寧なのは「犬を飼わない人」への視点を最初から組み込んでいる点です。犬の排泄物の管理、騒音、遊具や運動場との距離のとり方。オフリーシュエリアの境界をはっきり示すことで、犬のいる人といない人が同じ公園をうまく分け合える、という考え方が根底にあります。実際バンクーバーは、犬の排泄物を専用に回収する試験事業まで行いました。「犬のための空間」ではなく、「みんなで分け合う公園」として設計する。この温度感が、共生という言葉に説得力を与えているように感じます。

■ 日本との違いは「フェーズ」の違い

日本にも犬の登録制度はあります。マイクロチップの登録も進み始めました。ただ、その情報を「公共空間の配分」に接続する発想は、まだ一般的ではありません。ドッグランは民間や有志、あるいは限られた公園の一角に、いわば個別に生まれてきました。

これは日本が遅れている、という話ではないと考えています。カナダは国土が広く、そもそも公園面積の余裕が違う。人口密度も都市構造も異なります。日本のように、限られた都市公園を多用途で分け合う社会では、犬の区域を増やすこと自体に別の難しさがあります。むしろ注目したいのは、「登録データを街づくりに使う」という発想そのもの。どこに犬と暮らす人が多いのかを数字で把握し、公共空間の計画に反映させる。土地の広さではなく、この考え方は、明日からでも輸入できるものだからです。

■ 私たちが今からできること

飼い主にできるのは、まず登録をきちんと行うこと。当たり前のようでいて、その一頭一頭のデータが「この地区には犬がこれだけいる」という声になります。行政にできるのは、そのデータを眠らせず、公園やドッグランの計画根拠として読み解くこと。事業者である私たちソプラ銀座にできるのは、犬と暮らす人がどこに、どれだけいるのかを可視化し、共生の設計に使える情報として社会に還元していくことだと考えています。

犬の居場所は、誰かの善意で「なんとなく」できるものではなく、データにもとづいて「きちんと」設計できるもの。バンクーバーの6地区の話は、そう教えてくれます。

うちの子が走る場所も、いつか街の設計図の中に、当たり前に書き込まれている。そんな社会を、私たちは思い描いています。

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