犬が街に「時間割」を持つ都市がある。── バルセロナが90万㎡を犬に開けて見つけた、共生の設計図

「公園で犬を放していいのは、朝と夜だけ」。
そんなルールが、スペイン第二の都市バルセロナには、街ぐるみで存在します。

犬を自由に走らせられる場所は、日本ではまだ「特別なドッグラン」。けれどバルセロナは、街そのものに犬の居場所を編み込みました。その総面積、実に約90万平方メートル。今日は、地中海の街が10年かけて描いた「共生の設計図」を、数字と一緒にのぞいてみたいと思います。犬と暮らす街は、どうやって作るのでしょうか。

■ バルセロナの現状:225か所、90万㎡が「犬の場所」

バルセロナ市の発表によると、市内には犬のための空間が225か所あり、その合計面積は約90万平方メートルにのぼります。東京ドームおよそ19個分の広さが、犬のために確保されている計算です。

この225か所は、大きく三つに分かれます。

・AEP(Areas de Esparcimiento para Perros):400㎡を超える「運動・社交のための広場」。新しく作られるものは700㎡を超えることも珍しくありません。
・AP(Areas para Perros):400㎡未満の小さな空間。日常の短い散歩用に、街角や広場、近所の庭に細かく配置されています。
・ZUC(Zonas de Uso Compartido/共用ゾーン):普段は人の通る道や広場・公園を、決まった時間帯だけ犬のオフリード(リードを外してよい)空間に切り替える仕組み。市内に109か所あります。

このZUCこそ、冒頭の「時間割」の正体です。朝と夜のあらかじめ定められた時間帯には、そこは犬が自由に走っていい場所になる。日中は買い物や通勤で人が行き交う場所が、朝夕には犬も走れる場所へと表情を変える。新しく広い土地を確保できない密集した都市でも、「同じ空間を、時間で分け合う」なら共生の面積を一気に増やせる――そういう発想の転換です。ゾーンには標識やごみ箱、照明もきちんと整備され、犬が苦手な人にも「いま、ここは犬の時間か」がひと目で分かるようになっています。

しかも、この109の共用ゾーンは、バルセロナの73すべての地区(バリオ)に最低1か所ずつ置かれています。「うちの地区には犬の場所がない」という人を出さない、という設計思想です。

■ 海にも、犬の居場所がある

さらに象徴的なのが、市内北端にある「プラヤ・デ・リェバン(Platja de Llevant)」。バルセロナ市内で唯一、犬と一緒に海水浴ができる公式ビーチです。

夏の海水浴シーズン(2025年は5月27日~9月11日)になると、砂浜の一角に約1,200㎡の柵で囲われたエリアが設けられます。シャワーや専用の水飲み場も完備。開放は10時30分から19時30分まで。入場にはマイクロチップによる個体識別が必須で、入口には管理スタッフが立ちます。安全のため、同時に入れる頭数はおよそ60頭までと決められています。

「ビーチは犬立ち入り禁止」が世界の常識のなかで、”どこなら一緒に入れるか”を都市が正面から設計している。ここに、バルセロナの姿勢がよく表れているのではないでしょうか。

■ なぜバルセロナはここまでできたのか

背景にあるのは、「禁止でもなく、放任でもない」第三の道を選んだことです。

犬を全面的に自由にすれば、犬が苦手な人や子ども、他の利用者との摩擦が生まれます。かといって全面禁止では、犬と暮らす市民の生活が成り立たない。そこでバルセロナが2023年末に本格導入したのが、この「時間帯で分ける」ZUCの仕組みでした。ルールと同時に罰則も設けられ、時間外や指定外での放し飼いには過料が科されます。

自由を配るのではなく、ルールとセットで場所を配る。この現実的なバランス感覚が、街全体への展開を可能にしました。実際、犬の空間は2018年から2025年のあいだに30%も増えています。

そして市が掲げる目標が印象的です。「市民の95%が、自宅から徒歩10分以内に犬の空間を持てる状態」。犬の居場所を、公園や交通と同じ”都市インフラ”として測っているのです。

■ 日本との違い:私たちは「別のフェーズ」にいる

日本はどうでしょう。多くの公園ではリード着用が原則で、オフリードで走らせられるのは会員制や有料のドッグランが中心。海水浴場も、犬同伴が明示的に許される場所はごく限られています。

これは日本が「遅れている」という話ではないと、私たちは考えています。人口密度、公園面積、犬の飼育文化――前提条件が違えば、たどる順番も変わります。ヨーロッパの多くの都市は、まず「犬は社会の一員」という合意を先に築き、そのうえで場所やルールを設計してきました。バルセロナがいるのは、その合意を前提に”場所を時間で分ける”という次のフェーズ。日本はまだ、そのフェーズの入口に立っているのだと思います。順番が違うだけで、向かう方向は決して遠くないはずです。

大切なのは、答えを丸ごと輸入することではなく、「時間で分け合う」「地区ごとに1か所は置く」「徒歩10分で測る」といった設計の”考え方”を持ち帰ることではないでしょうか。

■ 私たちが日本で、今からできること

いきなり90万㎡は無理でも、始められることはあります。

飼い主にできるのは、まず既存のルールを丁寧に守ること。「犬がいても迷惑をかけない」という信頼の積み重ねが、次の一歩の土台になります。事業者にできるのは、犬と過ごせる時間や空間を”少しだけ”開いてみること。バルセロナの時間割が教えてくれるのは、100か0ではなく、「朝と夜だけ」でも共生は始められる、ということです。

そして自治体にできるのは、犬の居場所を”福祉やインフラの指標”として測り始めること。徒歩10分、という物差しは、日本の街でもきっと使えます。

ソプラ銀座も、犬の幼稚園やホテルという小さな「場所」を通じて、犬と人が自然に隣り合える時間を少しずつ増やしていきたいと考えています。

同じ砂浜を、同じ広場を、時間で分け合う。
そんな緩やかな共生のかたちが、いつか日本の街角にも当たり前にありますように。うちの子と、朝の光のなかを一緒に走れる場所を思い浮かべながら。

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