ドイツでは、犬を飼うと、自治体にきちんと税金を払います。
年間120ユーロ。日本円でおよそ1万8,000円。
「犬に、税金?」と、思わず驚かれるかもしれません。
けれどこの『Hundesteuer(フンデシュトイヤー)』は、ドイツが100年以上かけて作り上げてきた、犬と社会の関係を映す制度です。今日はその背景を、私たちなりに一緒にのぞいてみます。
■ ドイツ『Hundesteuer(犬税)』の現在地
ドイツでは、犬を飼うすべての世帯が、住民登録している自治体に犬税を申告し、毎年納める義務があります。金額は自治体ごとに異なり、各市町村が条例で決めます。
主要都市の最新(2025年)金額を並べてみます。
・ベルリン:1匹目 年120ユーロ、2匹目以降 年180ユーロ
・ミュンヘン:1匹目 年100ユーロ、2匹目以降 年150ユーロ。危険犬種に指定された犬(Listenhunde)は年800ユーロ
・ハンブルク:1匹あたり年90ユーロ前後
業界調査によると、ドイツ全国の犬税収入は2022年で約4億1,400万ユーロ、2023年は約4億2,100万ユーロ。日本円にしておよそ650億円規模のお金が、毎年「犬」をきっかけに動いている計算です。
注意したいのは、この税収が直接ティアハイム(動物保護施設)に流れているわけではない、という点です。Hundesteuerは目的税ではなく、自治体の一般財源として道路や公共サービスに使われます。そのうえで、自治体が動物保護や公園整備にも投資する。「犬と暮らす街」の運営費を、犬を飼う人がまず負担する。そんな構造になっています。
支払いと引き換えに、飼い主は犬の鑑札(Hundemarke)を受け取り、首輪に装着する義務を負います。鑑札番号は自治体に登録されており、迷子になっても、咬傷事故が起きても、すぐに飼い主にたどり着ける。税金を払う、というよりは「街と一頭一頭が紐づけられている」感覚に近いのかもしれません。■ なぜドイツは犬に税金をかけ続けてきたのか
犬税のルーツは19世紀。産業革命で都市に犬が急増し、狂犬病対策や公衆衛生の文脈から、ドイツ諸州で課税が始まったと言われています。同じ時期の1837年、シュトゥットガルトでアルベルト・クナップが、ドイツで最初の動物保護協会を設立しています。「税で管理する」発想と「権利として守る」発想が、同じ時代に並走して動き出した、ともいえます。
その後ドイツは、動物保護を国家の課題として制度に組み込みます。1933年に動物保護法『Tierschutzgesetz』が制定され、1972年に現在につながる形へと大改正。2002年には憲法(基本法)第20a条に「動物の保護」を国家目標として書き込んだ、世界でも数少ない国のひとつになりました。
つまり犬税は、ただの財源ではないのです。
「犬を飼う」とは「社会に登録する」ことであり、「街と契約する」こと。
このすり替えのない発想が、長い時間をかけて制度として根を張ってきました。だからこそ、ベルリンのカフェでは犬が当たり前に足元にいて、Sバーンやトラムにも乗れて、それでも誰もそれを「特別な配慮」とは呼ばない。Hundesteuerを払って鑑札をつけている犬は、「社会の一員」なのだから、街にいて当然、というわけです。
■ 日本との違い
実は、日本にも「犬税」はありました。
1955年には全国2,686の自治体で課されていた記録があります。けれど徴収コストや、犬の管理方法の変化、税負担を嫌い犬を捨てる飼い主が出るなどの逆効果もあり、犬税は次第に姿を消していきます。1982年、長野県の旧四賀村が最後の課税自治体となり、1頭につき年300円の犬税を廃止。これをもって日本から犬税は消えました。
一方で日本も、「犬の登録」と「狂犬病予防注射」は今も飼い主の法的義務です。
お金で可視化するか、義務で見えにくく支えるか。両国の違いは「お金の動き方」と「市民の納得のつくり方」の違い、と整理するほうが正確かもしれません。ドイツは課税という強い装置で「犬は社会の一員」と毎年再確認する。
日本は飼い主のモラルと、自治体の地道な運用で支える。
どちらが優れているという話ではなく、社会が選んだ道筋が違うのではないでしょうか。
ただ、ドイツ式から学べる点もあります。犬税を払うからこそ、飼い主は「飼う前に考える」習慣がつきます。年間1〜2万円の固定費が発生する制度は、衝動的な飼育を抑制し、ブリーダーや販売の在り方にも一定の規律を生む。実際、ドイツではブリーダーへの規制も厳しく、ペットショップでの生体販売は極めて限定的です。「飼うコスト」を可視化することが、結果的に犬と人の双方を守っている、とも言えそうです。
■ 私たちが、日本でできること
制度を変えるには時間がかかります。
でも、私たちが今日からできることもあります。
・愛犬の登録、狂犬病予防注射、鑑札の装着を「義務」ではなく「社会との契約」と捉え直す
・しつけや社会化を通じて、犬が街に出る準備を整える
・「飼える店」「乗せられる交通機関」を増やしていけるよう、声をあげ、選び、支える
ソプラ銀座でも、犬の幼稚園やしつけ事業、ホテル、ペットサロンを通じて「街に出る準備」を、一頭一頭と一緒に作っています。
「うちの子」と呼べる存在を、「街の子」として迎えてもらえる社会へ。
そのために、私たちにできる小さな積み重ねがあると考えています。
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ドイツが150年かけて辿った道は、決して特別なものではないのかもしれません。
社会が「犬と共に生きる」と決めて、それを制度に、財布に、街並みに落とし込んだ。
その積み重ねの先に、ベルリンのカフェや公共交通で犬と人が当たり前に同じ空間にいる光景がある。
日本で同じ制度をすぐに作る必要はないと、私たちは考えています。
けれど、「犬を飼うことは、街と契約することだ」という発想は、明日からでも持ち帰れる。
鑑札を磨く。名前を覚えてもらう。公共の場で胸を張って歩けるように、一緒に学ぶ。
共に生きるという選択を、社会の前提に。
私たちも、できるところから、ご一緒に。
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