ペットの数が、子どもの数を超えた国。── 台北が「TaiPET City」を掲げて、街を犬と猫に作り変えはじめた話

「少子化が進む」と、私たちは何度もニュースで聞いてきました。
でも、その隣で静かに起きていたもう一つの変化を、ご存じでしょうか。

台湾では2025年、ペットの猫が174万匹、犬が146万匹に達しました。
合わせておよそ300万。これは、台湾に暮らす14歳以下の子どもの数を、すでに上回っています。
「ペットが、子どもより多い国」が、海を挟んだすぐ隣に生まれているのです。

数が増えれば、街のかたちも変わります。
今回は、首都・台北が掲げる「TaiPET City(ペットの都市)」という構想を通じて、ペットの数が社会の前提になったとき、都市がどう変わっていくのかを見てみたいと思います。

■ 台北は、街そのものを「犬と暮らす場所」に作り変えている

台北市内には現在、リードを外して犬を遊ばせられる「狗公園(ドッグパーク)」が21か所あります。
なかでも有名なのが、松山区にある迎風狗運動公園。広さ約1ヘクタールの敷地が、体重9kg未満の小型犬と、それ以上の大型犬とで区画を分けてあり、トンネルやシーソーといったアジリティ設備、水遊び用のプールまで備えています。

公園だけではありません。
台北市は2016年(民国105年)から「動物友善空間(アニマル・フレンドリー空間)」という認証制度を始めました。これは飲食店やレジャー施設、交通機関などが「ペットと一緒に入れます」と手を挙げて参加する仕組みです。街のあちこちに、犬連れOKの目印が増えていきました。

交通の整備も早い。
2017年には犬を連れて乗れる路線バスの運行が始まり、いまでは市内12行政区すべてをカバーする19路線に広がっています。
そして2025年4月、台北メトロ(MRT)は国際ペットデーに合わせて、淡水信義線で「犬の友善列車」を4本走らせました。ハーネスとリードを着けていれば、ケージに入れなくても犬と一緒に地下鉄に乗れる、という試みです。大型のペットカートも、1枚80台湾ドルの専用切符を買えば乗車できます。

■ なぜ台北は、ここまで動けたのか

背景にあるのは、冒頭の数字です。
ペットが子どもの数を超える社会では、「ペットと暮らす人」はもはや少数派ではありません。台湾経済研究院(TIER)も、ペット関連市場の拡大を指摘しています。飼い主が有権者として、消費者として、無視できない規模になった。だから行政も企業も動く。これはとても自然な流れです。

しかも、その内訳も静かに変わっています。
2025年、台湾では飼い猫の数が初めて飼い犬を上回りました。猫は2023年から約33%も増えた一方、犬はわずかに減っています。背景にあるのは、単身世帯の増加と、都市の狭い住まい。広い庭を持てない暮らしのなかで、「家族としてのペット」のかたちそのものが多様化しているのです。だからこそ、行政が用意すべき居場所も、画一的ではいられなくなっています。

もう一つは、台湾という街の「密度」です。
人口が都市に集中し、住まいは決して広くない。だからこそ、家の外に犬の居場所をつくる――公園、バス、地下鉄といった「公共空間」を共生のインフラとして整える発想が、現実的な解になりました。庭がないなら、街を庭にすればいい、というわけです。台北101の足元、信義広場にある円形のフェンスで囲われた芝生エリアも、そんな「街なかの庭」の一つ。摩天楼を背景に犬が走る光景は、台北が選んだ共生のかたちを、よく表しているように思います。

■ 日本との違いは「遅れ」ではなく、設計思想の差

ここで大切なのは、「台湾が進んでいて日本が遅れている」と片づけないことだと、私たちは考えています。

日本にも、ドッグランも、ペット同伴のカフェも、確実に増えています。
違うのは、それを「個々の施設の好意」として広げるのか、「都市の制度」として設計するのか、という発想の置き方ではないでしょうか。台北の「動物友善空間」認証や、行政区ごとに張り巡らせたバス路線は、点ではなく面で街を作り替えようとする発想です。

そして台湾も、けっして完成形ではありません。
現地では「大型犬と小型犬の区画分けが足りない」「アジリティ設備の設計が使いにくい」「芝生の手入れが行き届かない」といった声も上がっています。施設があることと、気持ちよく使えることは、別の問題なのです。「作って終わり」にしない運用こそが、次の課題として残されています。

■ 私たちが、日本で今からできること

では、私たちは何をできるでしょうか。

飼い主にできるのは、「うちの子と行ける場所」を一つずつ増やすこと。
ペット同伴可のお店に足を運び、マナーを守って利用すれば、それは「需要がある」という何よりのデータになります。お店や事業者が次の一歩を踏み出す、静かな後押しになるはずです。

事業者にできるのは、ペット同伴を「特別なサービス」から「当たり前の選択肢」へと近づけること。
そして行政に期待したいのは、点在する好意を、面としてつなぐ制度設計です。台北の「動物友善空間」認証のように、参加した店舗や施設を一つの地図の上に可視化していくだけでも、飼い主にとっての街の見え方は大きく変わります。バス19路線、ドッグパーク21か所――こうした数字が積み上がっていくのは、誰かが「制度」として設計したからにほかなりません。台北のやり方は、その一つの参考になるのではないでしょうか。

私たちソプラ銀座も、犬の幼稚園やホテル、サロンを通じて、「ペットと共に生きること」が前提になる街を少しずつ広げていきたいと考えています。

ペットの数が、子どもの数を超えた。
それは、寂しいニュースとして読むこともできます。
けれど見方を変えれば、「家族のかたちが広がった」社会の風景でもあります。
その家族が、安心して街を歩ける場所をどう増やしていくか。
台北の街は、その問いに、もう動き出して答えはじめています。

いつか、うちの子と一緒に地下鉄に乗って、近所の公園まで出かけられる。
そんな当たり前を、この国でも当たり前にしていけたら。

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